骨盤底筋の誤解
産前・産後の骨盤とセットで重要視されることが多いのが、骨盤底筋です。
どうして骨盤底筋が産前・産後に大切だと思いますか?
「骨盤を支えているから」
「赤ちゃんを支えているから」
「膣を締めて、赤ちゃんが下がらないようにする筋肉だから」
「おしっこを止めて、 尿漏れしないようにするから」
「骨盤を締めてくれるから」
こんなふうに認識されていることが多いようなのですが、実はこれ、すべて誤りです。
骨盤底筋とはその名のとおり、骨盤の「底」 ある小さな柔らかい筋肉たちの総称です。
その筋肉たちの間には女性の場合、 尿道・膣・肛門 という3つの穴があいています。
考えてみましょう。
柔らかくて小さな穴だらけの筋肉に、赤ちゃんや内臓や骨盤が支えられるでしょうか。
無理ですよね。
ちょっと考えればわかることなのですが、私も昔は気がつきませんでした。
世の中の大半の認識と同じように、骨盤底筋が緩んでいるから赤ちゃんや内臓が下がって、骨盤も傾いてしまう。
だから、骨盤底筋を締め上げればいいと思い込んでいました。
ところが、実際にちゃんと体を観察してみると、骨盤底筋が本当に緩んでいるのは、産後すぐのごく限られた人たちだけで、ほとんどは、骨盤底筋がむしろ縮んでいる人ばかりだったのです。
尿漏れについても誤解があります。
おしっこを止めているのは、正確には骨盤底筋ではなく、骨盤底筋から膀胱に向かってつながっている尿道にある尿道括約筋という筋肉です。
尿漏れのある人は,膀胱が下垂していて、尿道が短くなってしまっています。
尿道が短くなると、尿道括約筋はうまく働くことができません。
産前 産後に大切なのは 「支える筋肉」
つまり、尿漏れを改善したかったら、骨盤底筋を締めることよりも、「支える筋肉」を使えるようにして、膀胱を持ち上げ、尿道を伸ばして、尿道括約筋を使いやすくすることが必要なのです。
では、骨盤底筋の本当の役割は何でしょう?
「支える筋肉」を使うためにとても大切な仕事を担ってくれているのです。
この後、詳しく説明していきますね。
支える仕組みを知ろう
妊娠中の体は、どうやってお腹の赤ちゃんを支えているのでしょうか。
お腹の赤ちゃんや内臓、そして骨盤は、体中の筋肉や骨格たちのチームプレイによって支えられています。
その中心となっているのが、体の内側にある筋肉、インナーマッスルです。
重たくて大きなボールのような子宮や内臓をインナーマッスルで押し 挟むようにして支えています。
そうすることで、骨盤は傾くこともなく。
広がりすぎることもなく、正常な位置にいることができるのです。
支えるためのインナーマッスルには、大きく分けて次の3つのグループがあります。
脊柱起立筋グループ
腹筋グループ
骨盤底筋グループ
メインで働くのは脊柱起立筋グループです。
呼吸の吐く息、つまり、体の中の空気を口や鼻へと押し上げる動きや、背筋を伸ばす動きとともに、下から上に伸びる動きのある筋肉です。
その「下から上に伸びる」動きを使って、内臓を上に持ち上げます。
できるだけたわまないようにこれら筋肉を1列に整列させることで、支える働きができるようになります。
腹筋グループは、脊柱起立筋グループのサポート役です。
肋骨から下の体幹の前面には骨がありません。
だからこそ、妊娠したときにお腹が膨らむことができるわけですが、一方で、骨がないために内臓は前に出やすくなります。
内臓が前に出ると、背骨がたわみ、「支える筋肉」たちが1列に整列しづらくなります。
腹筋グループの仕事は、これを防ぎ、「支える筋肉」が整列できるようにすることです。
つまり、特別な目的でもない限り、それ以上に腹筋を鍛える必要はない、ということなのです。
さらに背筋を伸ばして, 後ろに少し寄りかかるように重心を背中側に乗せると,意識して腹筋を使わなくても自然と腹筋は伸び、内臓を押さえる働きをしてくれます。
こうした腹背筋の使い方のバランスをつかむことが、「支える筋肉」を楽に使えるようになるコツです。
3つ目は、骨盤底筋グループです。
この中でメインのように思えるグループですが、一番仕事は少ないです。
先ほども少し触れましたが骨盤底筋の仕事は「締める」ことでありません。
その名のとおり、骨盤の下(底)に敷かれることが一番の役目です。
呼吸とともに働く筋肉なので、息を吸ったときに下がり、吐いたときに上がります。
脊柱起立筋グループと連動して動きますが、あまり意識して使おうとすると、かえって連動が切れてしまいます。
引用:体づくりで変わる産前・産後 著者 奥谷まゆみ